大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2545号 判決

本籍

兵庫県尼崎市神田中通六丁目二三三番地

住居

京都市中京区御幸町通竹屋町下る松本町五八四番地 坂本一郎方

医師

村田重喜

大正一一年六月一五日生

本籍

徳島市東山手町一丁目七番地

住居

同市南佐古町七丁目三二番地

徳島薬品株式会社社長

吉田武一

明治三六年六月九日生

右の者等に対する塩酸ヂアセチルモルヒネ及び其の製剤の所有等の禁止に関する件違反、麻薬取締規則違反各被告事件について、昭和二四年七月一四日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人村田重喜の弁護人坂本一郎の上告趣意について。

論旨は、原審が被告人のごとき前科もなく、犯情憫諒すべきものに対して、実刑を科したのは残虐な刑罰であつて、憲法第三六条に違反するというのであるが、同条の「残虐な刑罰」とは人道上残虐と認められる刑罰を意味するのであつて本件のごとき裁判所が法律により許された範囲内で、普通の刑を量定した場合は、これに該らないことは当裁判所の判例に徴して明白である。(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六月三〇日大法廷判決参照)所論は、結局原判決の量刑の不当を主張するに帰着し、適法な上告の理由とならない。

被告人吉田武一の弁護人毛利与一、同沢邦夫の上告趣旨について。

所論は、要するに原審の事実の誤認、量刑の不当を主張するものであつて、上告適法の理由とすることはできない。(尚「残虐な刑罰」に関する所論については、前論旨に対する説明と同様である)

次に「職権を以て、原判決の法律の適用を調査すると、被告人吉田武一の判示、第一の塩酸ヂアセチルモルヒネ販売の所為、第二の麻薬の所持の所為について、原判決は、犯罪後に法律による刑の変更があつたものとして刑法第六条、第十条を適用している。しかし、判示昭和二〇年厚生省令第四四号及び麻薬取締規則は共に昭和二三年七月一〇日麻薬取締法第六五条により廃止せられたのであるが、同法第七四条には右法令廃止前にした行為に対する罰則の適用については、右各法令はその廃止後も、尚、効力を有する旨規定されているのであつて、判示第一、第二の各所為に対しては、いずれも当然にその行為時の法令が適用せられ、新法はその適用を排除されるのであるから、原判決が新旧法令の比照をしたことは誤りといわなければならない。又原判決が右判示第一、第二の所為に対して麻薬取締法五八条を適用したのは同五七条の誤りである。しかしながら、原判決は右新旧比照の結果前記昭和二〇年厚生省令第四四号並びに麻薬取締規則に従つて、被告人吉田武一を処断したものであることは原判文上明らかであるから、如上擬律の錯誤は、結局原判決の主文には影響しないものと判断するのを相当とする。」

よつて、刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条に従い、全裁判官一致の意見により、主文のとおり判決する。

検察官 小幡勇三郎関与

(裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判長裁判官霜山精一は差支につき署名押印することができない。 裁判官 小谷勝重)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例